神戸地方裁判所 平成7年(ワ)969号 判決 1998年2月23日
兵庫県三木市大村五六一番地
原告
株式会社岡田金属工業所
右代表者代表取締役
岡田保
右訴訟代理人弁護士
酒井信次
同
田中稔子
右輔佐人弁理士
大西健
東京都板橋区小豆沢三丁目四番三号
被告
株式会社タジマツール
右代表者代表取締役
田島庸助
右訴訟代理人弁護士
増岡章三
同
増岡研介
同
片山哲章
主文
一 被告は、別紙「ロ号物件」図面記載の替え刃を製造、販売してはならない。
二 被告は、原告に対し、金一〇一二万〇〇一〇円を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
五 この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、別紙「イ号物件」図面記載の背金及び右背金を固着した別紙「被告鋸柄1」「被告鋸柄2」「被告鋸柄3」の各図面記載の鋸柄を製造、販売してはならない。
2 主文一項同旨
3 被告は、原告に対し、金二二七二万三八七一円及び平成九年五月一日以降平成九年一一月一八日まで一か月当たり金二九四万二七六三円の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 3項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
原告及び被告は、いずれも、工具等の製造、販売を業とするものである。<背金及び鋸柄に係る請求-実用新案権に基づく請求>
2 原告は、別紙実用新案権目録記載の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有しているところ、本件考案の構成要件は、
(一) 柄2の先端部に背金3を取り付け、該柄2への替え刃4の取り付けに際しては、背金3の内側に形成した支持部5に、替え刃4の凹部6を掛け合わせる構成の替え刃式の鋸において、
(二) 背金3全体の長さを、替え刃4の手前側基部を支持する寸法に設定するとともに、
(三) 背金3における支持部5が位置する下方の間隙部Bを、替え刃4の基部を容易に差入れ得る巾に設定して解放し、
(四) 該巾広状の間隙部Bを、背金3における支持部5よりも前方側で、かつ、背金3の下方側付近、あるいは、背金3の先端側付近に形成した鋸替え刃4の厚み以下に設定した狭まり部Cに至るまで継続させ、
(五) 背金3への鋸替え刃4の掛け止め操作時にあっては、替え刃4の背部が該狭まり部Cに至るまでは、挟持状態となることなく自由に回動させるようにする一方、
(六) 鋸替え刃の完全装着時にあっては、専ら該恒久的な狭まり部Cによって挟持され、背金3における他の内壁面部分は替え刃4の側面部に対して、圧接状態とならないように形成した、
との特徴を具備した背金の構造であると分説することができる(以下、各構成要件を「構成要件(一)」などという。)。
3 本件考案は、背金に替え刃を差し入れる「間隙部」と替え刃を挟持する「狭まり部」とを区別して形成し、替え刃の完全装着時においては、専ら「狭まり部」により替え刃を挟持させる構成とすることによって、同一の鋸柄に対して種々厚みの異なった替え刃の装着を可能にするという効果を奏する。
4 被告は、平成六年八月一日以降、業として別紙「イ号物件」図面記載の背金(以下「イ号物件」という。)を固着した別紙「被告鋸柄1」「被告鋸柄2」「被告鋸柄3」の各図面記載の鋸柄(以下、これらをあわせて「被告鋸柄」という。)に替え刃を装着して製造販売しているところ(以下、被告鋸柄に替え刃を装着したものを「被告鋸」という。)、イ号物件は、
(一) 柄2の先端部に背金3を取り付け、該柄2への替え刃4の取り付けに際しては、背金3の内側に形成した支持部5に、替え刃4に形成した凹部6を掛け合わせるように構成した替え刃式鋸において、
(二) 背金3全体の長さを、替え刃4の手前側基部を支持する寸法に設定するとともに、
(三) 替え刃4の基端かけがね部を両側から圧接して支持する、突起の先端が点状であるばね指片10を設け、かつ、背金3における一方側片部と他方側片部とが段違い状となるようにして支持部5の下方の一部を露出させるとともに、支持部より先端側の間隙部Bを替え刃4の基部を容易に差し入れ得る巾に設定して解放し、
(四) 該巾を手前側から先端までの間一定にするとともに、背金3前方の割り込み部Dに、対向する下端縁が手前側から先端側に向かうに従って巾狭に形成されかつ断面略馬蹄形状の板バネ9を嵌合させることにより、背金3を前端かつ下端の挟持箇所Cに至るまで下方側の手前から先端に向かうに従って、また、先端の上方から下方に向かうに従って、それぞれ次第に狭まらしめ、
(五) 背金3への替え刃4の掛け止め操作時にあっては、背金3の内側の間隙巾が替え刃4の厚みより大きい部分では替え刃4を自由に回動させ、右間隙巾が替え刃4の厚み以下の部分では替え刃4の背部が挟持箇所Cに至るまでの間、背金3の内側と接触状態を保ちながら挟持箇所Cを次第に押し広げるように回動させるようにする一方、
(六) 替え刃4の完全装着時にあっては、専ら板バネ9によって形成された挟持箇所Cによって挟持され、背金3における他の内壁面部分は、ばね指片10の部分は替え刃4の側面部に対して圧接状態となるが、その他の部分は圧接状態とならない、
との構成の背金である。
5(一) イ号物件の構成(一)及び(二)は、本件考案の構成要件(一)及び(二)を充足する。
(二) 本件考案の構成要件(三)の充足性について
本件考案において、「支持部が位置する下方」に「替え刃の基部を容易に差し入れうる巾に設定した間隙部」を設ける構成となっているのは、替え刃を装着する際に、替え刃の基部を支持部の下方側から差し入れることを予定しているからである。したがって、本件考案にいう「支持部が位置する下方」とは、当該部分に間隙部を設けた場合には、替え刃を装着する際に支持部の下方側から替え刃の基部を差し入れることとなる範囲、すなわち、支持部上端を通る背金の上辺に平行な直線より下方部分を指すものと解するべきである。
そうすると、イ号物件においても「替え刃の基部を容易に差し入れる巾に設定して解放し」た「間隙部」が「支持部が位置する下方」に設けられていることとなるから(イ号物件の構成(三))、イ号物件は、本件考案の構成要件(三)を充足する。
(三) 本件考案の構成要件(四)の充足性について
イ号物件は、背金前方の割り込み部に板バネを嵌合させることにより、「背金の先端側の縦辺部周辺」に替え刃の厚み以下の巾に設定した「狭まり部」を設ける構成となっている。なお、イ号物件における「挟持箇所」は、この「狭まり部」のうち、背金の前端かつ下端の部分である。
そして、イ号物件においては、右「狭まり部」に至るまでは、替え刃の厚み以上の巾に設定した「間隙部」が継続していることになるから、イ号物件は、本件考案の構成要件(四)を充足する。
なお、イ号物件においては、「間隙部」の巾は、「挟持箇所」に至るまでの間、次第に狭まっていく構成となっているが、本件考案においても、「間隙部」の巾は、「狭まり部」に至る過程において、次第に狭まっていくことを当然に予定しているものである。
また、イ号物件においては、「狭まり部」の形成に当たって、板バネを使用しているが、本件考案においては、「狭まり部」の形成方法を何ら限定していないから、板バネを使用したことによって、構成要件の充足性が否定されるわけではない。
(四) 本件考案の構成要件(五)の充足性について
イ号物件においても、本件考案と同様に、替え刃装着時において、替え刃の背部が「狭まり部」に至るまでは、替え刃を自由に回動させることができる構成となっている。
さらに、イ号物件においては、替え刃の背部が「狭まり部」に到達した後「挟持箇所」に至るまでの間、替え刃が背金の内側と接触状態を保ちながら「挟持箇所」を次第に押し広げるように回動する構成となっているが、本件考案においても、替え刃の背部が「狭まり部」に到達した後は、替え刃は当然右のように回動する。
よって、イ号物件は、本件考案の構成要件(五)を充足する。
(五) 本件考案の構成要件(六)の充足性について
イ号物件は、「狭まり部」の一部である「挟持箇所」によって専ら背金を挟持する構成となっている。
イ号物件において、背金に嵌合された板バネは分離することを予定しておらず、かつ素手ではこれを分離することはできないから、イ号物件における「狭まり部」は「恒久的」であるといえる。
また、本件考案が、「(狭まり部を除く)背金の他の内壁面部分は替え刃の側面部に対して圧接状態とならない」との構成になっているのは、背金のうち「狭まり部」を除いた部分は、替え刃を挟持する機能を有しないという趣旨であるから、右の構成要件もそのような意味で理解しなければならない。そうすると、イ号物件においては、「狭まり部(挟持箇所を含む)」のほか、「ばね指片」の部分も、替え刃の側面に対して「圧接状態」となっているが、「ばね指片」は、単に替え刃のがたつきを防止するためのものに過ぎず、替え刃を挟持する機能を有しないから、「ばね指片」の部分における「圧接状態」は、本件考案にいう「圧接状態」にはあたらない。
よって、イ号物件は、本件考案の構成要件(六)を充足する。
(六) 以上のとおり、イ号物件は、本件考案の構成要件を全て充足し、本件考案の技術的範囲に属するから、イ号物件及びこれを固着した被告鋸柄の製造販売は、本件実用新案権を侵害する。
6 原告は、被告の右侵害行為によって本件実用新案権の実施料相当額(被告鋸の売上額の三パーセント)の損害を被った。
被告鋸の販売数量は、これと同種の原告製品の販売数量に、同種の原告製品と被告鋸との市場における販売比率(この比率は原告の市場調査によって判明した。)を乗じて推定することができ、被告鋸の販売単価は、これと同種の原告製品の販売単価と同額と推定することができるから、右損害の額は、(一) 平成六年八月一日から平成九年四月三〇日までが、合計八六六万八二九五円、(二) 平成九年五月一日以降が、一か月当たり八一万三一三五円である。<替え刃に係る請求-不正競争防止法に基づく請求>
7 原告は、昭和五七年七月以降、別紙「本件替え刃」図面記載の形態の鋸替え刃(以下「本件替え刃」という。)を製造し、昭和六三年一一月以前は、原告において、同年一二月以降は、子会社である株式会社ゼット販売(以下「ゼット販売」という。)において、これを販売している
8 本件替え刃の商品形態の商品表示性・周知性
(一) 本件替え刃は、(1) 基部側上方位置に形成されたフック状の掛け止め部の形状、(2) 掛け止め部の近傍の背凹部の存在、(3) 商品名の一部としての寸法表示が施されていること(特に「265」が意味する刃渡り二六五ミリメートルという寸法は、原告の独自の研究により最適であると判明したJIS規格にもない寸法であり、それ自体独自性を有する。)の三点の特徴を有している。
(二) 需要者が替え刃式鋸を購入する際には、自己の所有する鋸柄に装着可能か否かという観点から、まず、替え刃の掛け止め部の形態に着目するのであり、次に、替え刃の寸法にも注意を払うのであって、本件替え刃の右特徴は、いずれも需要者の注意を惹くものであるといえる。
(三) 原告は、昭和五七年七月以降、右特徴を有する数種類の替え刃を独占的かつ継続的に製造販売したところ、それらの替え刃は、その高品質性及び利便性が需要者に認められるとともに、活発な宣伝広告活動が行われたため、爆発的な売れ行きを記録した。
したがって、本件替え刃の商品形態は、取引者及び需要者の間で自他識別力及び周知性を獲得した。
9 被告は、平成六年八月一日以降、別紙「ロ号物件」図面記載の替え刃(以下「被告替え刃」という。)を製造し、訴外藤原産業株式会社に販売させている。
10 被告替え刃の掛け止め部の形状と本件替え刃の掛け止め部の形状は、肉眼では識別し得ないほどそっくりである。
また、被告替え刃の掛け止め部の近傍には、本件替え刃の背凹部よりやや横巾が広いものであるが、やはり背凹部が存在する。両者の背凹部の形状の違いは、需要者をして本件替え刃と被告替え刃を顕著に識別させるほどの相異ではない。
さらに、被告替え刃においても商品名の一部として寸法表示が施されている。
したがって、本件替え刃の商品形態と被告替え刃の商品形態とはほとんど同一であるから、需要者は、本件替え刃と被告替え刃の出所について誤認混同し、また、両商品の出所の間にライセンス契約、業務提携関係、OEM契約(相手先ブランドによる商品供給契約)等の「定の緊密な関係があるのではないかと誤認するおそれがあり、被告替え刃の販売によって、原告は営業上の利益を侵害された。
11 被告替え刃の形態が本件替え刃とほとんど同一であること、被告替え刃には、製造工程上不要であるにもかかわらず本件替え刃と同様の背凹部が形成されていること、被告は、原告が提起した本件替え刃と酷似の替え刃(ただし、被告替え刃とは別の商品である。)の製造販売の差止訴訟の継続中に、被告替え刃の製造を開始したものであることからすると、被告は、故意に、本件替え刃を模倣して被告替え刃を製造したものである。
12 原告は、被告の右不正競争行為によって本件替え刃の商品形態の使用料相当額(被告替え刃の売上額の三パーセント)の損害を被った。
被告替え刃の販売数量は、原告の本件替え刃の販売数量に、本件替え刃と被告替え刃との市場における販売比率(この比率は原告の市場調査によって判明した。)を乗じて推定することができ、被告替え刃の販売単価は、本件替え刃と同額と推定することができるから、右損害の額は、(一) 平成六年八月一日から平成九年四月三〇日までが、合計一四〇五万五五七六円、(二) 平成九年五月一日以降が、一か月当たり二一二万九六二八円である。
<まとめ>
13 よって、原告は、被告に対し、実用新案法二七条に基づきイ号物件及び被告鋸柄の製造販売の差止めを求めるとともに、不正競争防止条三条一項、二条一項一号に基づいて被告替え刃の製造販売の差止めを求め、さらに、民法七〇九条、実用新案法二九条二項、不正競争防止法四条、五条二項一号に基づき、平成九年四月三〇日までの損害賠償金二二七二万三八七一円及び平成九年六月一日から本件口頭弁論終結の日である平成九年一一月一八日まで一か月当たり金二九四万二七六三円の割合による損害賠償金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし4は認める。
2 同5(一)は認め、同5(二)ないし(六)は否認ないし争う。
3 同6は否認する。
4 同7は認める。
5 同8は否認する。
原告は、本件替え刃を販売する際に、その掛け止め部や背凹部の形状を展示してないこと、原告のほか訴外バクマ工業株式会社や有限会社中屋鋸・機械製作所なども本件替え刃と同様の掛け止め部や背凹部を有する替え刃を販売していることからすると、本件替え刃の形態が、原告の商品表示として、需要者の間で周知性を獲得したとはいえない。
6 同9は認める。
7 同10ないし13は否認ないし争う。
被告替え刃上には、大きく目立つように「E・Valueレッドソー」の表示が施されているから、需要者が、被告替え刃を原告の商品であると誤認混同するおそれは全くない。
三 被告の反論
1 本件考案の構成要件の解釈について
(一) 本件考案の出願過程における原告の主張
(1) 原告は、平成元年六月一二日付の特許庁長官に対する早期審査に関する事情説明書において、本件考案は、背金の先端部と下方縁部にそれぞれ辺状部を形成し、その一方又は双方に狭まり部を形成する構成であり、替え刃を挟持する際には線接触の状態となるから、単に背金の先端で点接触により替え刃を挟持する先行技術に比して、挟持力が極端に向上するものであると主張した。
(2) 原告は、平成元年一二月二日付の特許庁長官に対する手続補正書において、本件考案の請求の範囲及び図面を補正し、本件考案における「狭まり部」は、背金の先端の「縦方向の辺部全体」あるいは該辺部に続く「横方向の辺部全体」又は「右両辺部全体」に形成するものであると主張し、また同日付の意見書において、本件考案は、右のような構成とすることにより、単にピンセット状の先端部で点接触により替え刃を挟持しようとする先行技術に比して、格段の挟持力を発揮しうるものであると主張した。
(二) 原告は、本件考案の無効審判の審決に対する審決取消訴訟(東京高等裁判所平成七年行ケ第五号)において、「本件考案においては、背金の(素材板)を二つ折り成形の工程を経る前に『狭まり部の予備成形』が不可欠である。」と主張した。
(三) 本件考案の「狭まり部C」の構成の理解
右(一)及び(二)に照らせば、本件考案にいう「狭まり部C」とは、背金の先端部に形成された「縦方向の辺部全体」あるいは「横方向の辺部全体」又はその「両辺部全体」に設けられ、替え刃に対して線接触の状態となるものであって、かつ、背金の素材板に予備成形を行うなどして、背金自体を絞り込むことによって形成されるものであることを要すると解される。
2 イ号物件が本件考案の構成要件を充足しないことについて
(一) 本件考案の構成要件(三)の充足性について
本件考案における「支持部5が位置する下方」とは、その文言の通常の意味からして、支持部下端を通る背金の上辺に平行な直線より下方部分を指すものと解すべきである。そうすると、イ号物件においては、「背金の一方側片部と他方側片部とが段違い状となるようにして支持部の下方の一部を露出させ」ているため、「支持部が位置する下方」には「間隙部」が存在しないから、イ号物件は、本件考案の構成要件(三)を充足しない。
(二) 本件考案の構成要件(四)の充足性について
本件考案における「狭まり部C」は、1(三)項記載の構成のものであることを要するところ、イ号物件における「挟持箇所」は、背金の前端かつ下端に点状に形成され、替え刃に対して「点接触」の状態となるものであり、また、背金自体を絞り込むのではなく、背金に板バネを嵌合させることによって形成されている。したがって、イ号物件の「挟持箇所」は、本件考案にいう「狭まり部」にあたらず、イ号物件には「狭まり部」は存在しない。
また、本件考案は、「狭まり部C」至るまでの間、替え刃の厚み以上の一定の巾をもった「間隙部B」が継続する構成となっているが、イ号物件は、挟持箇所に至るまでの間、背金の内巾が次第に狭まっていく、いわゆる先細りの構成となっている。
よって、イ号物件は、本件考案の構成要件(四)を充足しない。
(三) 本件考案の構成要件(六)の充足性について
本件考案において、替え刃を「専ら」「狭まり部によって挟持」するというのは、「狭まり部」の全体で替え刃を挟持するという趣旨であると解されるから、仮に、イ号物件の「挟持箇所」が「狭まり部」の一部であるとしても、イ号物件は、「専ら」「狭まり部によって」替え刃を挟持するものとはいえない。
また、イ号物件の「挟持箇所」は、背金に着脱可能な板バネを嵌合させることによって形成されるものであるから、「恒久的」なものではない。
さらに、本件考案は、替え刃装着時に「(狭まり部を除く)他の内壁面部分は替え刃の側面に対して圧接状態とならない」構成であるが、イ号物件は、「挟持箇所」のほか、「ばね指片」の部分も替え刃の側面に対して圧接状態となる。
よって、イ号物件は、本件考案の構成要件(六)を充足しない。
(四) 以上のとおり、イ号物件は、本件考案の構成要件を充足しないから、本件考案の技術的範囲に属さない。
四 原告の再反論
1 原告は、本件考案について実用新案登録出願をしたところ、当初特許庁審査官から拒絶理由の通知を受けたので、「狭まり部」の形成位置を背金の先端側付近の「縦方向の辺部全体」あるいは「横方向の辺部全体」又は「両辺部全体」とする手続補正書及び意見書を提出したが、これに対して、特許庁審査官は、縦方向の辺部と横方向の辺部を設けた点に格別の作用効果があるものとは認められないとして、再度拒絶理由を通知した。そこで、原告は、「狭まり部」の形成位置を本件考案の登録請求の範囲のとおりに補正する旨の手続補正書を提出したところ、特許庁審査官は、本件考案について出願公告決定をした。原告は、右手続補正書を提出して以降は、本件考案の「狭まり部C」を辺部に形成されるものに限定するとの見解を主張したことはない。
右のような経過からすると、本件考案の「狭まり部C」を辺部に形成されるものに限定すべきではない。
仮に、本件考案の「狭まり部C」を右のように限定して解釈するとしても、イ号物件は、背金の先端に辺状に「狭まり部」が形成される構成となっているから、その要件を充足している。
2 被告は、本件考案の出願公告決定に対して、登録異議申立てを行ったが、その際、替え刃を挟持する際に点接触となる構成の背金(昭五三実公第一六七四号公報に記載された考案)を引用し、本件考案は、右考案と同一の構成であると主張した。したがって、被告が、本件訴訟において、替え刃を挟持する際に点接触となる構成の背金は本件考案の技術的範囲に属さないと主張するのは、禁反言の原則からして許されない。
第三 証拠
本件記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
第一 実用新案権に基づく請求について
一 請求原因1ないし4の事実は、当事者間に争いがなく、イ号物件が本件考案の構成要件(一)、(二)を充足することも当事者間に争いがない。
二 そこで、イ号物件が、本件考案における「間隙部B」及び「狭まり部C」の構成を具備するかどうかについて検討する。
1 本件考案における「間隙部B」及び「狭まり部C」の位置関係についてみるに、「狭まり部C」は、「背金3の支持部よりも前方側で、かつ、背金3の下方側付近」又は「背金3の先端側付近」に設けられ、「間隙部B」は、背金のうち「支持部5が位置する下方」から「狭まり部C」に至るまで継続して設けられるから、背金の支持部前方のうちの「狭まり部」以外の部分が「間隙部」であるということになる。
2 本件考案における「間隙部B」及び「狭まり部C」の形状の対比についてみるに、「狭まり部C」は、金属の弾性により替え刃を圧接するので、替え刃の厚みより巾が狭い部分を意味し、「間隙部B」は、替え刃に圧接しないので、替え刃よりも巾が広い部分を意味することは当然であるが、本件考案の登録請求の範囲の記載だけでは、それ以上に、「間隙部B」の隙間がどのような形状であるのかが必ずしも明らかではない。
しかし、本件公報の考案の詳細な説明によれば、本件考案は、同一の背金によって厚みの異なる種々の替え刃を鋸に装着することが可能なよう、背金に、「替え刃を差し入れる間隙部を形成する」ことにし、これにより、従来技術による背金(替え刃差入部の間隔が特定の鋸刃の厚み寸法に合わせて形成されていて、それと異なる厚みの替え刃に使用できない。)の問題点を解決しようとするものであることが明らかである。
このような本件考案の特徴に本件考案の登録請求の範囲の記載を合わせ考えれば、「間隙部B」のうち少なくとも「支持部5が位置する下方の間隙部」にあっては、単に替え刃を圧接しない程度の隙間があればそれでよいというものではなく、装着が予想される最も厚い替え刃を容易に差し込むことができ、かつ、「狭まり部」までの範囲でこれを自由に回動させる程度の隙間を有する部分として形成されたものでなければならないということになる。
3 「狭まり部C」及び「間隙部B」の位置関係が右1のとおりであり、形状が右2のとおりであるとすれば、本件考案における背金の支持部前方の下方部分には、圧接機能のみを果たす「狭まり部」の部分と、差込み及び回転機能のみを果たす「支持部5が位置する下方の間隙部」という、機能として連続性のない部分が格別に形成されていることになる。
4 イ号物件においては、背金の前方の割り込み部に板バネを嵌合させることにより、背金の下方側を手前から先端に向かうに従って、また、その先端を上方から下方に向かうに従って、それぞれその内巾を次第に狭めていく構成となっており、装着予定の最も厚い替え刃を容易に差し込み、かつ、「狭まり部」までの範囲でこれを自由に回動させる程度の隙間を有する「間隙部」というものを形成する構成とはなっていない。
したがって、イ号物件は、本件考案の構成要件(三)ないし(五)を充足しないといわなければならない。
5 原告は、本件考案においても、間隙部から狭まり部に至るまでの過程において、背金の内巾が次第に狭まっていくことを予定しているものであると主張する。確かに、「間隙部」と「狭まり部」の間に空間を設けるということでもしない限り、「間隙部」から「狭まり部」に至る部分においては内巾が次第に狭くなっていく部分が若干形成されることは予想されるが、この部分は、「間隙部」でも「狭まり部」でもない、本件考案の構成要件とは関係のない部分にすぎないから、イ号物件のようにいわゆる先細りの形状の背金についてまで本件考案の技術的範囲に属するものということはできない。
三 よって、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属さないから、その余の点につき判断するまでもなく、本件実用新案権に基づく原告の請求は理由がない。
第二 不正競争防止法違反に基づく請求について
一 請求原因7の事実は当事者間に争いがない。
二 証拠(甲二ないし四、八の1ないし369、九の1ないし227、一〇の1ないし18、一四、一八、二六、二七、乙一九、検甲二の1、2、七の1ないし4、八の1ないし5、九の1ないし5、一〇の1ないし5、検乙二の2)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 鋸市場に替え刃式鋸が登場するまでは、柄に鋸刃を一体的に取り付けた構造の両刃鋸が一般的であったが、このような両刃鋸では、鋸刃の目立て作業が必要となるところ、昭和四〇年ころから目立技術者の不足が顕著となる一方、鋸刃を激しく傷める集成材等の新建材が出現し、従来の一体型の鋸の不便さが顕在化した。このころ、柄に対して鋸刃を自由に取り替えることができるように構成した替え刃式鋸が出現した。
訴外レザーソー株式会社は、昭和四四年ころ、鋸市場において、替え刃式鋸「レザーソー」の大量販売に初めて成功したが、右「レザーソー」は、柄に取り付けた背金内に替え刃の背部を差し入れた後、替え刃を柄側に水平移動させ、鋸柄の下方に取り付けたネジを締め込むことによって替え刃を固定させる構造であった。
2 原告は、昭和五〇年六月から「パネルソー」の名称で、背金の円形支持部に替え刃の基部側のフック状の掛け止め分を掛け合わせた後、替え刃全体を背金の背部側に回動させ、背金の挟持部で替え刃を固定する方式(以下「回転着脱方式」という。)の替え刃式鋸の製造販売を開始した。「パネルソー」の替え刃は、基部にフック状の掛け止め部を形成し、右掛け止め部から刃先部分に至るまで緩やかな円弧を形成した形状であった。
原告は、回転着脱方式を採用した替え刃式鋸について、実用新案権を取得し(実公昭和五三-一六七四)、右権利は昭和六三年一月一八日まで存続した。
3 「パネルソー」は、替え刃の背部全体にわたって背金を配置させる構造となっていたため、切断できる木材の太さが刃幅のものに限定されるという難点があった。
そこで、原告は、右難点を克服するため、新たに背金を短くし、本件替え刃を装着した回転着脱方式の替え刃式鋸「ゼットソー265」を開発し、昭和五七年七月にその製造販売を開始した。本件替え刃基部の掛け止め部の形状は、「パネルソー」の掛け止め部の形状と同一であり、掛け止め部から刃先に至るまでの部分も「パネルソー」の替え刃と概ね同様の緩やかな円弧が形成されている(以下、本件替え刃の掛け止め部の形状及び刃先部分に至る円弧の形状をあわせて「本件基部形状」という。)。
4 さらに、原告は、様々な太さの木材を効率よく切断できる鋸に対する需要者の要望を満たすため、昭和五九年八月に「ゼットソー8寸目」を、昭和六一年六月に「ゼットソー300」を、平成元年九月に「ゼットソー仮枠333」を、平成三年三月に「ゼットソー7寸目」を、それぞれ製造販売し始めた(以下、これら「ゼットソー」の商品名で販売されている鋸及び替え刃をあわせて「原告商品」という。)。
原告商品における替え刃基部の形状は、全て本件基部形状と同一であり、かつ、それら替え刃は、掛け止め部近傍の替え刃の背の部分に凹部(背凹部)が存在すること及び替え刃側面に寸法表示がされていることの特徴をも具備している。
5 販売実績
原告商品は、発売以来、次々に鋸市場におけるヒット商品となり、その売上額は、昭和六二年に約二九億円を記録するまで順調に伸び、以後は、毎年二〇億円ないし三〇億円程度で推移し、原告は、原告商品の販売によって業界のトップクラスの地位を確立したものである。なお、原告は、昭和六三年一二月一日以降、原告商品の販売をゼット販売に委ねている。
6 宣伝広告活動
我が国有数の金物生産地である三木市では、生産物増加、産業発展の目的で殖産品指定を行っているが、本件替え刃を装着した「ゼットソー265」は、三木市の昭和五七年度の新殖産品に指定され、三木市により、全国の約八〇〇〇の小売店にダイレクトメールで紹介された。
また、原告及びゼット販売は、原告商品全般を大々的に宣伝広告しており、これに要した費用は、次のとおりである。
(一) 新聞広告費用
期間 昭和五七年四月一日から平成六年一一月二〇日まで
金額 三七三二万〇五〇〇円
(二) ラジオ、テレビ、カタログ等の費用
期間 昭和五七年四月一三日から平成六年一一月〇二日まで
金額 一億七六〇一万八二三〇円
7 本件替え刃は、錆を防止するため包装袋に入れて販売されているが、右包装袋には替え刃の全体形状が印刷されており、本件基部形状も認識できるようにされている。
三 本件基部形状の周知性について
1 右認定の各事実によれば、本件基部形状は、原告の開発にかかる独自のものであって、原告は、昭和五〇年から昭和五七年までの間は、本件基部形状とほぼ同一の基部形状を有する「パネルソー」の替え刃を、昭和五七年七月から昭和六三年ころまでの間は、本件基部形状を有する「ゼットソー」シリーズの替え刃を独占的に製造販売していたことが認められ、右認定の原告商品の販売期間、販売実績、宣伝広告の状況等を考慮すると、本件基部形状を有する替え刃の形態は、遅くとも平成元年ころには、替え刃式鋸の取引者及び需要者の間において、原告の商品であることを表示する自他識別力を有するに至るとともに、周知性を獲得し、現在もその状態は継続しているものと認められる。
したがって、本件替え刃の商品形態も、周知性を獲得したものと認められる。
2 原告は、替え刃側面に寸法が表示されていることも、商品表示の一部であると主張するが、替え刃式鋸において寸法を商品名の一部に取り入れ、これを替え刃の側面に表示することは、商品を特定するための表示として通常ありふれたものと解されるから、本件基部形状と寸法表示とが一体となって原告の商品であることを表示する自他識別力(商品表示性)を有することになるということはできない。
四 被告の不正競争行為について
1 請求原因9の事実は当事者間に争いがない。
2 被告替え刃の基部は、フック状の掛け止め部と刃先部分に至る緩やかな円弧から成り、掛け止め部近傍には背凹部が存在する。その円弧の半径が本件替え刃のそれよりも若干長く、その背凹部が本件替え刃のそれよりも若干横巾が広いものの、被告替え刃の基部形状は、本件基部形状とほぼ同一であるというべきである。また、被告替え刃全体の形状は、本件替え刃の全体形状と極めて類似している。
3 本件替え刃と被告替え刃の商品形態は酷似しているから、本件替え刃上に「ゼットソー」の表示が、被告替え刃に「E・Valueレッドソー」の表示がなされていることを考慮しても、取引者又は需要者において、少なくとも両商品の製造・販売主体に親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存在するかのように誤認する(いわゆる広義の混同の)おそれがあるということができ、被告が被告替え刃を製造した行為は、原告の営業上の利益を侵害する不正競争行為であるということができる。
4 被告替え刃の製造販売が開始された平成六年時点では、本件替え刃の商品形態が原告製替え刃を表示するものとして周知性を獲得していたことは、右のとおりである。そして、証拠(検甲三の1、2及び弁論の全趣旨)によると、本件替え刃の背凹部は、製造工程上の必要から形成されているものであるのに対し、被告替え刃の背凹部は、製造工程上は何らの必要性もないのに敢えて形成されていることが認められるから、被告は、本件替え刃を模倣して被告替え刃を製造したもの、すなわち右不正競争行為について故意があったものと推認すべきである。
五 右不正競争行為による原告の損害について
1 証拠(甲二四)及び弁論の全趣旨によれば、平成八年七月ころの市場における原告替え刃と被告替え刃の販売数量の比率は、五対一であり、販売価格の比率は、五対三であったことが認められる。そこで、被告が平成六年八月一日から平成九年一一月一八日までの間に製造した被告替え刃の数量及び販売単価を、証拠(甲一二)及び弁論の全趣旨によって認定できる右期間における本件替え刃の販売数量及び販売単価(後記(一)(1)、(二)(1))に右被告替え刃の販売数量及び販売単価の各比率(〇・二、〇・六)を乗じて推定することとし、これを前提に右期間における被告替え刃の売上額を推定すると次のとおりになる(右推定を覆すに足りる証拠はない。)。
(一) 平成六年八月一日から平成九年四月三〇日まで
(1) 本件替え刃の販売数量 五八五万六四九〇枚
本件替え刃の販売単価 四〇〇円
(2) 被告替え刃の販売数量 一一七万一二九八枚
(五八五万六四九〇枚×〇・二=一一七万一二九八枚)
被告替え刃の販売単価 二四〇円
(四〇〇円×〇・六=二四〇円)
(3) 被告替え刃の売上額 二億八一一一万一五二〇円
(一一七万一二九八枚×二四〇円=二億八一一一万一五二〇円)
(二) 平成九年五月一日から本件口頭弁論終結日である同年一一月一八日まで
(1) 本件替え刃の販売数量 一一七万一二九五枚
(一か月当たり一七万七四六九枚×六か月と一八日=一一七万一二九五枚)
本件替え刃の販売単価 四〇〇円
(2) 被告替え刃の販売数量 二三万四二五九枚
(一一七万一二九五枚×〇・二=二三万四二五九枚)
被告替え刃の販売単価 二四〇円
(四〇〇円×〇・六=二四〇円)
(3) 被告替え刃の売上額 五六二二万二一六〇円
(二三万四二五九枚×二四〇円=五六二二万二一六〇円)
(三) (一)、(二)の被告替え刃の売上額の合計
三億三七三三万三六八〇円
2 原告は、不正競争防止法五条二項一号に基づき、商品表示の使用料相当額を損害として請求するところ、本件替え刃の形態は、本件基部形状に特徴を有するものの、それ以外の大部分はありふれた形態であること(検甲六、弁論の全趣旨)、替え刃式鋸において回転着脱方式を採用した場合には、替え刃の掛け止め部の形状はある程度似通ったものとならざるを得ないこと、本件替え刃の側面には商品名が表示されているから、需要者が商品の形態のみを頼りに当該商品の出所を識別し選択するわけではないと考えられることを考慮すれば、商品表示(本件替え刃の商品形態)の使用料は、売上額の三パーセント程度であると算定するのが相当である。
そこで、右1において認定の売上額(合計三億三七三三万三六八〇円)に三パーセントを乗じて損害額を算出すると、一〇一二万〇〇一〇円(円未満切り捨て)となる。
第三 結論
以上の次第で、本訴請求は、被告替え刃の製造販売の差止め及び一〇一二万〇〇一〇円の損害賠償金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条を、仮執行の宣言につき同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 橋詰均 裁判官 島田佳子)
「イ号物件」面図
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「被告鋸柄1(商品名「藤巻」)」図面
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「被告鋸柄2(商品名「色まき」)」図面
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「被告鋸柄3(商品名「ゴムグリ」)」図面
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「本件替え刃」図面
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実用新案権目録
一 考案の名称 替え刃式鋸における背金の構造
二 出願日 昭和六一年四月二八日
三 出願公告日 平成二年一一月二〇日
四 登録日 平成五年二月一二日
五 登録番号 第一九五一六二三号
六 実用新案登録請求の範囲 添付の実用新案公報の写し(以下「本件公報」という.)の該当欄記載のとおり.
<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告
<12>実用新案公報(Y2) 平2-43681
<51>Int.Cl.3B 27 B 21/04 B 25 G 3/12 識別記号 B A 庁内整理番号 8709-3C 6759-3C <24><44>公告 平成2年(1990)11月20日
<54>考案の名称 替え刃式鋸における背金の構造
<21>実願 昭61-64806 公開 昭63-37202
<22>出願 昭61(1986)4月28日 <43>昭63(1988)3月10日
<72>考案者 山本勝次 兵庫県三木市大村561番地 株式会社岡田金属工業所内
<71>出願人 株式会社 岡田金属工業所 兵庫県三木市大村561番地
<74>代理人 弁理士 大西健
審査官 橋本康
早期審査対象出願
<54>参考文献 実公 昭31-11700(JP、Y1) 実公 昭53-1674(JP、Y2)
<57>実用新案登録請求の範囲
柄2の先端部に背金3を取り付け、該柄2への鋸替え刃4の取り付けに際しては、背金3の内側に形成した支持部5に、替え刃4の凹部6を掛け合わせるように形成した構成の替え刃氏の鋸において、背金3全体の長さを、替え刃4の手前側基部を支持する寸法に設定するとともに、背金3における支持部5が位置する下方の間隙部Bを、鋸替え刃4の基部を容易に差入れ得る巾に設定して解放し、該巾広状の間隙部Bを、背金3における支持部5よりも前方側で、かつ、背金3の下方側付近、あるいは、背金3の先端側付近に形成した鋸替え刃4の厚み以下に設定した狭まり部Cに至るまで継続させ、背金3への鋸替え刃4の掛け止め操作時にあつては、鋸替え刃4の背部が該狭まり部Cに至るまでは、挟持状態となることなく自由に回動させ得るようにする一方、鋸替え刃の完全装着時にあつては、専ら該恒久的な狭まり部Cによつて挟持され、背金3における他の内壁面部分は、鋸替え刃4の側面部に対して、圧接状態とならないように形成したことを特徴とする替え刃式鋸における背金の構造.
考案の詳細な説明
この考案は、先端部に背金を取り付けた柄と、その柄に取り付ける鋸刃とから成り、柄に対して、鋸刃を必要に応じて任意に着脱し得るように構成した替え刃式鋸にあつて、背金部への鋸刃の取り付け手段の改良に関するものである.
従来、木材の切断に際して使用せられる鋸としては、所謂両刃鋸が大多数を占めていたのであるが、合板や集成材等の新建材の多用化にともなつて、最近では、目立て作業を必要としない替え刃式の鋸が多く使用せられるようになつているのである.
このような柄に対して鋸刃を任意に取り替えるに構成の替え刃式鋸にあつては、簡単な操作でもつて鋸刃の着脱を行い得ること、並びに、その取り付け状態が確実で、長時間の使用に耐え得ることが、その製品の優劣を決することになるのである.
ところで、このような替え刃式の鋸における柄への鋸刃の係合手段としては、例えば、昭和57年実用新案公告第26724号公報に記載される如く、柄の先端部に鋸刃を差し入れ得る形の背金を取り付けるとともに、その背金の内側壁部に支持部を形成し、鋸刃の取り付けにこたはに際しては、その支持部に対して鋸刃の凹部を掛け合わすように構成したものが存在するのであるが、この種の構成のものにあつては、その構成がシンプルであつて着脱操作を極めて簡単に行えると同時に、長時間にわたる使用にも耐え得るという利点がある反面、背金における鋸替え刃の差し入れ部の間隔が、特定の鋸刃の厚み寸法に合わせて形成せられた構成となつている結果、例え、掛け止め凹部の形状が同じであつても、厚みの異なる鋸替え刃に対しては使用出来ないという不便さがあるのである.すなわち、鋸刃の厚みは、鋸刃の刃長さによつて種々異なつているのが普通であるが、背金を従来のような構成とした場合には、それぞれ鋸刃の厚みに応じて、形の異なる背金を用意しなければならないという不便さがあるのである.
この考案は、鋸替え刃を係合させるための背金の改良に関するものであつて、背金に、替え刃を差し入れる間隙部を形成するとともに、背金の一定個所に、その間隙を少なくした狭まり部を形成した構成とすることによつて、從来の構成のものにみられた上記のような問題点を解決しようとするものである.
図面にもとづいて、この考案に係る替え刃式鋸における背金の構成を説明すると、替え刃式鋸本体1は、第1図並びに第2図に示すとおり、先端部に背金3を有する柄2と、該背金3に対して着脱可能な鋸替え刃4とをもつて形成せられた構成となつており、その鋸替え刃4の取り付け部となる背金3は、第3図乃至第6図に示すとおり、鋸替え刃4を差し入れ得る間隙部と、該間隙部を絞り込むことによつて形成せられた狭まり部Cを有するとともに、該間隙部内に、鋸替え刃4を掛け止めるための支持部5を有し、かつ、その支持部5の下方位置に、鋸替え刃4の端部Aを差し入れ得るだけの間隙部Bを有する形の金属板をもつて形成せられていると同時に、その全体に対して焼入れ加工を施した構成となつているのである.なお、背金3全体に対する焼入れ加工は、背金における狭まり部Cの形状を長期間にわたつて維持するためのものであるが、この考案の不可欠の要件ではない.
上記は、背金3における狭まり部Cを背金3の下方縁部に形成した場合であるが、その別実施例としては、第7図に示すとおり、背金の中間部に形成した構成とすることも出来るし、また、場合によつては、第8図に示すとおり、背金の前方部に形成した構成とすることも可能であり、しかも、その形成位置によつて、鋸替え刃4を挟持する力を異ならしめることが可能となるのである.
この考案における替え刃式鋸の背金3は、上記のような構成であるが、背金部への替え刃4の取り付けに際しては、第2図に示すとおり、鋸替え刃4の端部Aを、背金3に形成せられた間隙部B内に差し入れると同時に、鋸替え刃に形成した凹部6を、背金の支持部5に掛け合わせた状態とした後、鋸替え刃全体を上方向へ押し上げるという操作によつて行われるのである.
この考案に係る替え刃式鋸における背金の構造は、上記のような構成であつて、次のような効果をもつものである.
すなわち、替え刃式鋸にあつて、背金の内部に支持部を形成し、該支持部に、鋸替え刃に形成した凹部を掛け止めるように構成した場合、簡単な操作で替え刃の着脱を行えること、並びに、その取り付け状態か確実で長期間の使用に耐え得るという利点がある反面、所定の厚さをもつ鋸替え刃以外のものは、例え、掛け止め凹部の形が同じであつても装着させることができないという不便さがあるのであるが、この考案に係る背金にあつては、鋸替え刃の厚み以下に設定した狭まり部Cが形成せられた構成となつている結果、鋸替え刃における掛け止め凹部6の形状並びに位置を共通にさせることによつて、種々の厚みをもつた鋸替え刃を装着させ得るという便利さがあると同時に、装着時にあつては、狭まり部Cによつて鋸刃自体が挟持せられた形となるので、鋸替え刃4と柄2との係合状態をとり確実なものにし得るという利点があるのである.
図面の簡単な説明
添付図面は、この考案の一実施例を示すものであつて、第1図は替え刃式鋸の全体を示す側面図、第2図は柄と替え刃との着脱状態を示す側面図、第3図は背金の全体を示す斜視図、第4図は背金と鋸替え刃との係合状態を示斜視図、第5図は背金における間隙部の内部構造を示す斜視図、第6図は背金における狭まり部の形状示す底面図、第7図並びに第8図は狭まり部別実施例を示す斜視図である.
1……替え刃式鋸本体、2……柄、3……背金、4……鋸替え刃、5……支持部、6……凹部、A……鋸替え刃先端部、B……間隙部、C……狭まり部.
第1図
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第2図
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第3図
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第4図
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第5図
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第6図
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第7図
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第8図
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「ロ号物件」図面
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実用新案公報
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